言わずと知れた栄養の宝庫、ウナギ。
ビタミンAを始めとしてビタミンD、ビタミンE、ビタミンB1、B2、B12などの成分を豊富に含んでいることはご承知の通り。
過去においては、「ウナギ、タコ、イカ、エビは、海底の泥の中から自然に生まれてくるのだ」という古代ギリシャの哲学者・アリストテレスが唱えた自然発生説が、まことしやかに信じられてきました。
自然発生説とは「生物が親を必要とせず、無生物から一斉に生まれることもある」という生命起源説の一つです。
かつては自然発生説に定義づけられていたウナギですが、実は、日本からはるか遠く2500kmも離れたフィリピン海プレート西マリアナ沖スルガ海山付近で誕生します。
孵化したばかりのニホンウナギは、眼も口も不完全なレプトセファルス幼生(柳の葉の形に似た透明な稚魚。ウナギの仲間の稚魚は全て、レプトセファルスと呼ばれる)です。
幼生は黒潮に乗っている間に親ウナギと同じシラスウナギの姿に変わり、はるばる三千海里を泳いで日本にやってくるのです。
ですが、ウナギの生態についてはまだ知られざることも多いのです。
熱心な研究者の努力の甲斐あって、一番の謎であったウナギの産卵場所はわかったわけですが、その生態や詳細な回遊ルートなどは、いまだ謎に包まれています。
ウナギは、縄文時代から食べられていたといいます。
また、万葉集に詠まれた水産物の中には、大伴家持が詠んだウナギの和歌があります。
「石麻呂に 吾(あれ)もの申す 夏やせに よしといふ物そ むなぎ取り食(め)せ」
(私はね、石麻呂に言ったんですよ。夏痩せにいいっていうウナギを獲って食べろ、ってね)
武奈伎は、ウナギの古称です。
天然うなぎは、胸が黄色なので、「胸黄(むなき)」と呼ばれていたことと関係があるのかもしれません。
この時代から、ウナギが夏バテに効くと認識されていたのは驚きです。
栄養成分表もない時代ですが、ウナギを食べれば体に活力がみなぎる、という多くの人々の実体験が元になっているからに相違ありません。
ウナギは、裂き8年、串3年、焼き一生とも言われ、取り扱いが難しい食材です。
入手法は、接岸してきたシラスウナギを捕らえ、親ウナギに育てる養殖が主体となっています。
また、完全養殖の研究も熱心に行われています。
2016年6月には、韓国がウナギの完全養殖技術開発に成功したと報じられました。
完全養殖技術が確立されて安定的にウナギの生産がされれば、安い価格でウナギを購入できますし、日頃から口にする機会も増えようというもの。
ウナギ好きの方にとっては非常に待ち遠しいことでしょう。
ですが、ウナギは毎日食べるものではなく「土用の丑の日」に食べるのが良いと言われています。
エレキテルの製作で有名な平賀源内が「土用の丑の日」にウナギを食べるのが良しと推奨したから、というのが理由とされています。
土用とは、「立春」「立夏」「立秋」「立冬」の前のおよそ18日間を指しており、この中で十二支の丑にあたる日を「土用の丑」と言います。
夏の土用は立秋前を指しています。
食材データ
種類:魚類
旬の季節:夏
主な効能
夏バテ防止
視力低下防止
美肌効果
血栓予防
栄養成分
ウナギは皮下に小さな鱗があり、体表がヌルヌルしています。
ヌルヌル成分はムコプロテイン(ムコ多糖質)というもので、水分を保持し、ウナギの皮膚呼吸を助けます。
血液と同様、ウナギの体表粘液にはタンパク毒があり、浮腫を引き起こします。
粘液は、外敵から身を守る役割があるといわれます。
血液中にはイクシオトキシンという毒があり、摂取することで下痢や吐き気などの症状があらわれ、目に入れば結膜炎、傷に入れば炎症、大量摂取すれば命を落とす危険性もあります。
ですが、タンパク毒なので熱に弱く、60℃で5分以上加熱すれば毒性を失うため、代表的な調理法であるかば焼きなど、ウナギを加熱すれば安心して食べられます。
ウナギには、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンB1、B2、B12などの栄養分が豊富に含まれています。
ビタミンAには、皮膚や血管や(喉や鼻腔などの)粘膜の強化、眼精疲労の予防、視力低下の改善に効果があります。
粘膜が強化されればウイルスが体内に侵入しにくくなり、免疫細胞の働きも活発になります。
ビタミンAは脂溶性ビタミンなので、油を使用した調理法で食べると体内への吸収率が上がり、それが内臓強化にもつながります。
ウナギに含まれるビタミンA(動物性食品に含まれるレチノールという成分)が、ウナギ(肝)では、ウルメイワシの約30倍以上、輸入牛ばら肉の約180倍以上、ウナギ(かば焼き)では、ウルメイワシの約11倍以上、輸入牛ばら肉の約60倍以上、含まれています。
若返りビタミンで名高いビタミンEや、疲労回復に有効なビタミンB1、お肌プルプル効果を呼び覚ますコラーゲンが、ウナギの蒲焼きには5530mgも含まれていますし、更には、人間の体内では合成されにくい必須脂肪酸EPA(エイコサペンタエン酸)が血液をサラサラにして血管年齢を若く保ちますので、心筋梗塞や脳血栓などを予防します。
脳の活性化を促すDHA(ドコサヘキサエン酸)も豊富です。
ウナギの肝には、ウナギのかば焼きの約3倍ものビタミンAが含まれており、かば焼きと肝吸いをセットで食べることは非常に理にかなっており、更なる栄養効果が期待できます。
特徴
ウナギに含まれるビタミンAは非常に豊富で、一人前のかば焼きを食べれば、一日の所要量の約2倍も摂れてしまいます。
ビタミンAが欠乏すれば、暗い所で物が見えにくくなる夜盲症や、目の角膜や皮膚などの異常が起きます。
ですが、栄養状態が行き届いた現代では、欠乏症よりもむしろ過剰摂取に気を配るべきでしょう。
ウナギのビタミンA(レチノール)は体内に蓄積されるので、ウナギをふんだんに食べ、更にサプリメントなどでビタミンAを追加して摂れば、過剰摂取になってしまいます。
妊娠期にレチノールを過剰に摂ると、胎児に悪影響があることが確認されています。
ウナギは言わずと知れたスタミナ食であることは間違いないですが、ほどほどに食べておきましょう。
漢方においても、ウナギは補益の食材とされ、気血を補い、体を丈夫にするといわれます。
また、中世ヨーロッパにおいてもウナギは高級食材でした。
ローマ教皇であるマルティヌス4世は、白ワインに溺れさせたウナギの焙り焼きを食べ過ぎて落命したと言われています。
ウナギの捌き方は、関東と関西では異なります。
関東は背開きにし、頭を取って蒸す工程を挟んでから、ウナギの身を「柔らかく」焼き上げます。
関西は、腹開きにして頭はつけたまま、白蒸しせずに「パリッと香ばしく」焼き上げます。
武家社会の関東においては、腹開きは「腹切り」に通じると考えるので、背開きに。
商人社会の関西においては、腹開きは「腹を割って話すこと」に通じると考えて、腹開きに。
また、近畿圏では「ウナギ」のことを「マムシ」と呼ぶこともあります。
「ウナギと梅干の食い合わせは腹痛になる」と言いますが、どうやらこれは迷信のようです。
医学的には「梅干しが胃酸の分泌を促し、ウナギの消化を助けるため好ましい」そうです。
実際に「ウナギ&梅干し」にトライされた方の体調に、何ら異常は見られなかったという話ですよ。
種類
ウナギとは、ウナギ科ウナギ属の硬骨魚の総称のことです。
世界中の熱帯~温帯にかけて分布しています。
16種類と亜種3種類の19種類が確認されており、食用となるのはその中の数種類です。
普段食べ慣れているウナギに「アンギラ・ジャポニカ(日本ウナギ)」、「アンギラ・アンギラ(ヨーロッパウナギ)」があります。
細長い日本ウナギに比べ、ヨーロッパウナギは太く短いです。
レシピ
うな重
最もポピュラーな調理法。ご飯の上にウナギのかば焼きを載せたもの。
重箱に入れて提供する物を「うな重」と呼ぶ。
重箱の蓋を開けたときのふわっ、とした湯気の中に食欲をそそる香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
卵を入れ、柳川風にする場合も。
うまき
鰻巻きのこと。
白焼き、またはかば焼きを芯にして巻いた卵焼き。
見た目も綺麗で、ボリュームもあり、食べ応え満点。
お酒のつまみにすれば、パクパクいけてしまう。
鰻の蒲焼き
夏の味覚と言えば、鰻の蒲焼き。
今でこそ、値段を気にしながら購入しなければならないが、元は江戸開発時に泥炭湿地ができてウナギが棲みつき、これを労働者が食したのが蒲焼きの始まり。
蒲の穂のような状態にぶつ切りにして串刺しで焼かれた蒲焼きは、安価な屋台料理と同等だったという。
ウナギ【鰻】 栄養の宝庫!ビタミンAが免疫力と内臓を強化する まとめ
ウナギにはビタミンAを筆頭に、様々な栄養分が豊富に含まれていることがわかりました。
ウナギにまつわる調理法は日本に根付いた文化であり、物心つく頃には「夏バテにはウナギ!」という認識がしっかり刷り込まれているほどです。
シラスウナギの漁獲量が年々減少していく中、卵からウナギへの完全養殖の技術の確立が一刻も早く望まれてやみません。
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