フィリップ・プティとツインタワー

ツインタワーあなたは「犯罪芸術」というジャンルがあるのをご存知ですか?

たとえばマルキ・ド・サドやオスカー・ワイルドによる性的倒錯。

漫画のキャラクターではありますが、ルパン三世による強盗の数々。

社会的には犯罪に分類されますが、同時に芸術としても成立しているような活動のことを称してこう呼ぶそうです。

ルパン三世がそうですが、人を傷つけたりしないということも条件の一つではないかと思います。

この記事では、そんな犯罪芸術の中でも、人々を驚愕させた“世界で最も高い場所で行われた事件”を紹介したいと思います。

 

フィリップ・プティ

フィリップ・プティフィリップ・プティは1949年8月13日フランスに生まれました。

自伝書「マン・オン・ワイヤー」(白揚社)によると、小さい頃からかなりの問題児だったようです。

わずか4歳で他の人に軽蔑的な態度を取るようになり、色々な物に登って人々から遠ざかろうとする変な行動が目立ったと言われています。

6歳になったとき「大きくなったら、舞台の演出家になる!」と宣言しました。

それ以来、独学で読み書きを身につけたそうです。

ところが、そんな決意と熱意も空しく、学校から退学処分を受けるなどの素行不良がひどすぎて、17歳でついに両親から勘当されてしまったのです。

その時のことをフィリップはこう綴っています。

「両親は私の個性が自分たちの手に余るようになったので、17歳の誕生日、法に則り親権を手放すことにした。私は自分の力で曲芸師、綱渡り師になると決意した。」

(『マン・オン・ワイヤー』(白揚社)から引用。2008年同名のドキュメンタリー映画が公開されました。)

両親に縁を切られたこと-ある意味ではしがらみから解放されたとも言えますが、これがきっかけになって、彼は大道芸人として生計を立てることになったのです。

 

罪名は「綱渡り」、作品名も「綱渡り」

ノートルダム大聖堂フィリップ・プティが犯罪芸術家としてのキャリアをスタートさせた場所は、生まれ故郷フランスでした。

まずは1971年(昭和46年)6月26日、パリのノートルダム大聖堂(地上75メートル)の2つの尖塔の間の綱渡りに成功しました。

しかも、この時大聖堂では宗教儀式の最中だったと言います。

神聖な場所でのとんでもない行動に、彼は警察に連行されましたが、この事件は翌日の新聞を派手に飾ることになりました。

彼の行動は、聖なる者への冒涜だと思う人もいたようですが、おおむね好意的に受け止められたということです。

続いて1973年(昭和48年)6月3日にはオーストラリアへ渡り、世界最大のアーチ型鉄橋として名高いシドニー・ハーバーブリッジの横断に成功します。

彼の偉業はたった50年ほど前から始まったのですね。

 

大道芸人の大きな野望

フィリップ・プティとツインタワーこの2件の成功に自信をつけたフィリップ・プティは、さらに大きな野望を抱きはじめるのです。

それは、当時ニューヨークに建設中の超高層ビル・ツインタワーを綱渡りするというとんでもない計画でした。

ツインタワーがノートルダム大聖堂よりもはるかに高いというのは言うまでもありません。

この野望を現実化するため、アメリカに渡ったフィリップ・プティ。

彼の夢を支援する仲間達も一緒でした。彼らはすぐさまツインタワーの調査にかかりました。

内部の構造はもとより、作業員の人数やシフト。

あらゆる情報を集めたと言います。

どうすれば綱渡りを成功させることができるのか、建設現場の中にも協力者を作るなど努力を重ね、彼らはいろいろな手段で情報を集め、方法を考えます。

時には病人やけが人になりすまし、警備員をだましてまで細かな計画を練り始めました。

フィリップ・プティ綱渡りそして翌1974年8月7日、犯罪が行われました。

場所は当然彼の野望の舞台、地上110階、ニューヨーク・ワールド・トレード・センターのツインタワーです。

9.11米国同時多発テロが起こったあのビルです。

罪名は「綱渡り」

それと同時にもう一つの作品も完成したことになりました。

作品名も“綱渡り”です。

フィリップ・プティは、今は存在しないツインタワーの間を“棒一本を手に”歩いてしまったのでした。

下界を見たら目がくらむほどの地上110階(高さ411m)の高い場所に、フィリップ・プティのみがいます。

仲間と思ったのでしょうか、一羽の白い鳥が悠然と彼に近づいてきたそうです。

フィリップ・プティ逮捕警官に逮捕はされましたが、彼のパフォーマンスはマスコミに取り上げられ、大評判となったため、罪には問われませんでした。

彼は現在も健在で、道化師として活躍しています。

その原動力は溢れる探求心と好奇心、そして行動力なのではないでしょうか?

 

フィリップ・プティ~9.11同時テロと綱渡りという野望、おそらく死因も~ まとめ

2001年、9.11 日本では深夜でした。

突然信じられない映像が飛び込んできたことを記憶している人もいるはずです。

アメリカを襲った同時多発テロ事件。

飛行機が突っ込んで、崩れ落ち、跡形無く破壊されたツインタワー。

その約20年前には全く同じ場所で、誰一人として傷つけることなく、無論一人の命も奪うこともなく世界で初めての(おそらく最後の)美しい犯罪が一人の男によって行われたことを忘れてはならないと思うのです。

彼の犯罪芸術への野望は尽きることがないでしょう。

彼が亡くなるとき、その死因もまた「綱渡り」なのかもしれません。

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