2010年代に入ってから、大きな躍進を遂げているPB商品。
その背景には、広告などを必要としない低コストでの販売にあります。
広告をやめることで価格競争が有利になるのであれば、ナショナルブランドも導入すれば良いのでは? そんな疑問も浮上しますね。
広告の必要性について考えてみましょう。
ナショナルブランドと広告の関係
日清のカップヌードルやハウスのジャワカレー、メーカー名を聞けば、扱う商品のブランド名が即座に脳裏に浮かびませんか?
ナショナルブランド(以下NB)商品がPB商品のような低価格を実現できない背景には、広告などにかける費用が大きな割合を占めていることにあります。
NBが広告費をかける理由には、消費者に自社製品に対しての「知覚価値」を持ってもらうという狙いがあります。
人間は、物を使えば使うほど愛着が湧いてくるように、CMなどの広告で身近に感じていればいるほど製品に対して愛着を抱く傾向にあります。
なぜ消費者は、PBよりもNBにより多くのお金を支払うのか?という視点での研究によれば、NBの知覚価値が増加するごとに、消費者の支払う価格も増加することが明らかになっています。
よく知っているもの、愛着を抱いているものには、より多くの支払いをしても構わないという心理が働くのです。
食品であれば「より美味しく感じる」、日用品であれば「より良い使い心地を感じる」といった気持ちが生まれ、その価値を得るために必要な支払いと考えるためです。
広告は、PBには感じられないプレミアムな魅力を、消費者に与える効果があります。
そのため、今後のPB商品との棲み分けを行うためには、「より良いイメージを消費者に与える広告」という戦略をとっていく必要があると指摘されています。
確かに、PBは身近な存在ではありますが、特定のNB商品ほどの思い入れは生まれにくいような気がしますね。
NBは、歴史が長ければ長いほど、繰り返しの刷り込みを広告によって行ってきています。
長期的な影響は、「人生の思い出」といった、人の心を豊かにする特別な価値を商品に与えやすくなるのです。
商品の機能的特性を中心に販売を行っているPBでは、マネできない点ですね。
NBのメーカーがブランド力を維持していくためには、機能的特性だけではなく、人の心を豊かにするプラスαが必要不可欠となるのではないでしょうか。
例えば、大手清涼飲料水メーカーであるコカ・コーラのCMを見ると、単なる「飲み物」という点以外にも「楽しさ」を与える商品であることを印象づけていますね。
PBの知覚価値の上昇とNB
日本におけるPBは、1980年代に本格化し、2010年代に大きな躍進を遂げるようになりました。
広告をおさえ、低価格を保つことで、成長してきたのです。
しかし、「知覚価値」という一点において、大きな変化も見られます。
PB商品が本格化した当初は、良質なNB商品の廉価版というイメージが定着していました。
安い分だけ、「品質も悪い」という認識ですね。
しかし、近年になって、品質の悪さというイメージが払拭されつつあります。
例えば、イオングループが展開しているPB「トップバリュ」は、2010年代から「品質向上」と「ブランド力の育成」を意識した活動を行ってきました。
2年で約6000品の商品を刷新し、毎月の1~7日に「トップバリュ週間」を作り、試食や専用コーナーを通して、消費者が商品との接触を増やす機会を設けました。
消費者がNB商品により多くのお金を支払う要因を調べた研究では、次のような要因が、知覚価値の向上に影響することを説明しています。
- 製品のイノベーション
- 特徴的なパッケージ
- 広告などの宣伝
- 価格プロモーションの抑制
- NBメーカーによるPB生産
- 製品製造の難しさのアピール
トップバリュは、これらの観点を押さえた活動を行ってきたと言えますね。
商品の刷新を行い、店頭での宣伝活動に力を入れています。
また、価格の安さに重点をおく姿勢も抑制し、「こだわりぬいた最上質のブランド」というコンセプトを持った「トップバリュセレクト」というブランドも立ち上げています。
また、それまでの生産はメーカー名を全面に出さないものでしたが、現在では「製造所固有記号」を採用することによって、トップバリュのページから製造元が検索できるサービスも展開しています。
これには、PBがNBメーカーによって製造されていると、消費者に認識してもらう効果があります。
つまり、PBが製造元であるNBメーカーを明らかにすることで、NBメーカーが広告などによって長い時間をかけて培ってきた「知的価値」を共有することができるというメリットを生み出しているのです。
そのため、NBメーカーは、PB商品の製造を安易に引き受けることは、避けた方が良いとの警鐘もならされています。
また、製品製造の難しさのアピールという点にもぬかりがありません。
例えば、牛肉という製品にしても、トップバリュセレクトでは「優良な生産者を厳選指定」し、「日本食肉格付協会の肉質等級の評価基準を満たしている」ことをアピールしています。
これだけ難しい問題をクリアした!という認識を消費者に持ってもらうための活動ですね。
製品製造の難しさは、そのまま商品の知覚価値の向上につながっていきます。
日本は、まだまだPBが発展中の国ですが、ヨーロッパ諸国にみられるPB熟成国では、こういった要因をクリアしながら、PBの市場シェアを拡大することに成功しています。
日本でのPBの知覚価値の上昇によってNBとのシェア率が縮まる可能性が高まっているのです。
しかし、ここで紹介した「知覚価値」の向上についての要因は、PBだけに当てはめられることではありません。
トップバリュが行った活動は、「自社の売り場」という限られた範囲でのことです。
PBでは行えない「広告」という強みを持つNB商品ならではの、知的価値向上の要因の、長期的な活用法が存在すると考えられます。
例えば、オランダのビール会社である「グロールシュ」は、さまざまクラフトマン(職人)を登場させるCMを流すことで、専門技術が必要なほどの製造の難しさをアピールしています。
また、クラフトマンを身近に感じることで、商品とのより強い絆を消費者が持つことに至っています。
NB商品は、これからも広告を媒介にプレミアム感を与えることで、低価格路線に走ることなく存続していく可能性を秘めているのではないでしょうか。
PB商品|ナショナルブランドにおける広告の必要性 まとめ
ナショナルブランドが広告を必要とする理由には、PB商品では持ちえない魅力を、消費者に発信していくという目的があります。
トップバリュのように、「特別な魅力」を持ったブランドにシフトするPBも存在しますが、いまだNBへの域に達していませんね。
すべてがPB化しても、売り場が画一化するだけで、買い物の面白みも半減してしまうかもしれません。
NBだけの持つプレミアム感は、消費者にとっても、選択肢の幅を広げるという大切な役割を果たしているのではないでしょうか。