舌下免疫療法

春先になると悩まされる人が多い、スギ花粉症。
アレルギーが原因で鼻炎になると、本当に辛いですよね。
そんな症状に対する治療法の一つが、舌下免疫療法と呼ばれるものです。
薬を服用するタイプのものですが、自宅でも行えるうえに、副作用も少ないことから注目されています。

舌下免疫療法(SLIT)とは

舌下免疫療法とは、「Sublingual immunotherapy(SLIT)」と呼ばれる、「スギ花粉症」および「ダニアレルギー性鼻炎」に適応される治療法のことです。

アレルギーの原因となる「アレルゲン」を少量ずつ与えていくことで、体を慣れさせていき、症状を緩和させるという治療法のことを免疫療法と言います。
1910年に発表されて以来、100年位上にわたって、世界中で研究されてきました。

そのなかでも、舌の下部分に、治療薬を投与するタイプのものを舌下免疫療法と言います。
舌の下に投与する理由は、顎の左右にあるリンパ節に、成分が届きやすくなるためです。
アレルギー反応に関わりのある免疫機能があるため、重要な場所なのです。

舌下免疫療法の服用例

舌下免疫療法の初めての服用は、医療機関で医師の指導のもと行われますが、その後は自宅で続けることができます。
頻繁に通院する必要がないため、従来の方法よりも手軽になることが魅力です。
体に抵抗力をつけるための服用例は、次のようなものになります。

  • 1日に1回、濃度の低い治療薬から始める。
  • スギ花粉症は2分間、ダニは1分間、治療薬を舌の下に置く。
  • 治療薬を飲み込み、その後5分間ほど、うがいと飲食を控える。
  • スギ花粉症は2週間、ダニは1週間続けたら、一定の濃度の治療薬に切り替える。
  • 一定量の濃度のものを、3~5年間かけて服用していく。

年単位という長期間に渡って、しっかりと治療を行っていく方法ですね。
通院のペースに関しては、通い始めの時期は2週間分の処方しかできないため、2週間に1回ほどの頻度が必要です。
その後、4週間に1回のペースに伸ばすことができます。

ちなみに、医師の処方箋が必要なため、治療薬を薬局でそのまま購入することはできません。
また、スギ花粉症とダニ両方の治療薬を併用することは、現時点では不可能となっています。
研究は進められていますので、将来に期待ですね。

治療を開始する時期に関しては、スギ花粉症は6月から12月が推奨されています。
スギ花粉が多く飛来する時期がくるまえに治療を開始して、症状の発症を予防するという意味があるからです。
花粉が飛ぶ時期に治療を希望しても、不可能なので注意しましょう。
ダニに関しては、とくに時期が定められていないので、いつからでも始めることができます。

どんな人におすすめなのか

舌下免疫療法は、症状の重症度にかかわらず、受けることができます。
軽くても重くても、大丈夫ですが、とくに次のような人は受けてみると良いでしょう。

  • 通常の薬の効果が薄いと感じる人
  • アレルギーの薬の種類が多すぎるので減らしたいと考えている人
  • これから受験や資格試験などに望む人
  • 妊娠によるアレルギーの悪化を避けたい人(妊娠で症状が重くなるケースが)
  • 眠気を誘発する抗ヒスタミン薬の使用を避けたい人
  • 花粉症の症状が辛い・薬の副作用がキツイと感じる人
  • 毎年の花粉症をどうにかしたいと思っている人

また、毎日きちんと服用し続ける必要があるため、継続する意思が必要です。
毎日忘れずに飲める自信がない人は、アレルゲンを皮下に注射して治療を行う「皮下免疫療法」を選ぶと良いかもしれません。

何歳から服用可能なのか

舌下免疫療法は、少し前まではスギ花粉症とダニの、どちらの治療でも12才以上の年齢でなければいけませんでした。
しかし、2018年の2月から年齢制限がなくなり、何歳からでも使用は可能となっています。
また、保険の適用もされるようになりました。

ただし、世界保健機関(WHO)では、免疫治療は5才以上になってから開始することを推奨しています。
そのため、日本のクリニックでは、5才以上を対象にすることが多いようです。
5才以下の治療については、医師と相談のうえ決めたほうが良いですね。

また、高齢者に関しては、効果が弱くなる可能性があるためか、65歳までという年齢制限を設けているクリニックも存在します。
逆に、年齢の上限はないとしているクリニックもあるので、高齢者の治療に関しては、まずは相談してみるようにしましょう。

舌下免疫療法を始めるための条件

舌下免疫療法を始める前に、満たしておかなければいけない条件が、いくつか存在します。
以下のような点に注意する必要があるので、チェックしておきましょう。

  • 血液検査でスギ花粉症、またはダニアレルギー陽性だと確認する必要がある
  • 開始前に、服用量や方法、副作用に関する説明をきちんと受けて理解する
  • 抜歯など、口腔内に傷や炎症がある場合は適応外
  • 妊娠中または、妊娠の可能性および希望がある人は適応外
  • 重い喘息や心臓病を合併している人は適応外
  • がん治療を行っている人は適応外
  • 免疫不全の病気、治療で免疫抑制剤を使用している人は適応外

とくに、心臓病の治療のため、βブロッカー(インデラル・セロケン・アーチストなど)を服用していたり、ステロイドといった免疫抑制剤を全身投与(内服、注射)したりしている場合は、舌下免疫療法は不可能です。

どんな治療効果が期待できるのか

舌下免疫療法は、じっくりと効果を得ていく方法です。
そのため、効果を実感するまでには最低でも3ヶ月以上は必要とされています。
開始1年をすぎると、効果は高まっていくと言われています。
効果を得るまでに、まずは2年を目安に、始めてみると良いとされています。
その後の継続期間については3~5年ほど必要ですが、担当の医師と相談して決めるようにします。

即効性がないのが残念ですが、根本的な治療を目指すのであれば、視野に入れておきたい治療法です。
ただし、100%の人に効果を発揮するものではありません。
治療を受ける患者の2割には、全く効果を発揮しないという報告があります。

また、効果を実感して、長期の治療を終了した場合にも、じょじょに効果が弱くなる可能性も存在します。
治療を終えても、効果が持続する人もいますが、弱くなってしまった場合は再度はじめから行うことで、効果を取り戻すことは可能です。

舌下免疫療法を受けた場合、次のような治療効果が期待できます。

  • くしゃみや鼻水、鼻づまりの改善できる
  • 涙目、目のかゆみの改善ができる
  • アレルギー治療薬の量を減らすことができる
  • 生活の質を改善させることができる

また、アレルギー症状を完治させる効果はあるのか?という疑問もありますね。
舌下免疫療法を受けた患者を調べた結果、完治する可能性があるのは、全体の1~2割だということが分かっています。

その他の結果としては、効果があったと思うと感じた患者は2~3割いました。
また、7~8割の患者は、症状の緩和といった効果があったことを報告しています。
完治には至らずとも、症状の緩和と、薬の量を減らすことができるというのは、間違いなさそうです。

舌下免疫療法の副作用

舌下免疫療法は、注射などの治療法に比べて、副作用が比較的少ないとされています。
しかし、それでも全くの無縁というわけではありません。
アレルギーのもとであるアレルゲン物質を使用するため、どうしても症状が現れてしまいます。

通常のケースでは、治療の開始後1ヶ月ほどは、次のような症状が見られることがあります。
治療の途中で服用をやめて、再度薬を飲みなおすときにも、同様の症状が再発することがあります。

  • 口内炎や口内の腫れを感じる
  • 口内や喉に刺激感や不快感が出る
  • 目や耳、口内にかゆみを感じる
  • くしゃみ、鼻みず、鼻詰まり、咳といった症状が出る
  • 嘔吐、腹痛、下痢など腹部症状が出る
  • 蕁麻疹が現れることがある
  • 頭痛や喘息の発作が現れることがある

ほとんどの場合、重篤化せずに軽い症状のまま治まっていきます。
日本国内においては、現在のところ、重い副作用が出たというケースは見られていません。
ただし、海外では稀にアナフィラキシーと呼ばれる、強いアレルギー反応を起こすケースが報告されています。

アナフィラキシーは、医薬品などを投与した場合、体が過敏反応をおこすことです。
息苦しさといった呼吸器の異常や、意識の混濁といったショック症状が見られます。
多くの場合は、投与後30分ほどで症状が現れると言われています。

初めて治療を試みる人は、服用後30分ぐらいはバイタルチェックを行い、クリニックで経過観察をする必要があります。
どこのクリニックでも、こちらの対処には気を配っているので、とくに心配する必要はありません。

また、副作用をできるだけ防ぐ注意点として、薬の服用後に激しい運動をするのは避けましょう。
自宅で服用している際に、副作用と思わしき症状が出る場合は、次回の通院までに使用を中止すると良いでしょう。
ただし、症状が悪化しているようであれば、すぐに通院しているクリニックに連絡を入れるか、救急車を呼ぶなどして対応するようにしてください。

舌下免疫療法で気になるQ&A

舌下免疫療法については、紹介した内容のほかにも気になる点があることでしょう。
よく質問される内容を、次のようにまとめてみました。

Q スギ花粉症やダニアレルギー以外にも効果は出る?
A 舌下免疫療法は、スギ花粉およびダニアレルギー以外のアレルギー抗原に対しては、効果は期待できません。複数のアレルギーを持つ人も少なくありませんが、スギおよびダニの症状にしか対応しないのです。
海外では、他の花粉症に対しての治療薬も使用されていますが、日本国内においては、他のアレルギー症状に対して別の治療法を選ぶ必要があります。

Q 舌下免疫療法を受けている期間に他の薬を飲んでも大丈夫?
A 舌下免疫療法を受けていても、他の花粉症などの薬を使うことはできます。担当の医師に相談しながら、症状に合わせて併用していってください。ただし、セレスタミンといった免疫に関係するステロイドを含んだ内服薬は、避ける必要があります。同じステロイドを含んだものでも、点鼻薬や点眼薬であれば大丈夫です。

Q 舌下免疫療法を中断してしまいましたが、再開しても良いのでしょうか?
A 再開は可能ですが、薬の濃度が低い状態からの再スタートとなります。体を慣らしていた状態で中断すると、抵抗力がリセットされてしまいます。リセットされた状態で、高濃度の治療薬を飲み直すと、副作用が出る可能性が高くなるためです。できるだけ中断しないよう、毎日の服用を続けるよう心がけましょう。

Q 1ヶ月あたりの治療費用はいくらぐらい?
A 1ヶ月あたりの治療費用は、3割負担と考えて、スギ花粉症で3,000円ほどとなります。ダニの場合は、4,000円ほどが相場ですね。ただし、地域差などもあるので、こちらで紹介した相場よりも、高かったり安かったりする場合があります。

花粉症の治療|舌下免疫療法の効果と副作用 まとめ

治療薬を自宅で服用することで、症状の緩和が期待できる、舌下免疫療法。

皮下免疫治療よりも、やや効果が弱いとされていますが、注射せずに改善したい人は挑戦してみると良いかもしれません。

※こういった方法もあるという、ひとつの情報としてお考えいただき、必ず医師にご相談ください

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