全日本剣道連盟の段位・称号取得の際に不正があったことが明らかになりました。
信実と誠実となくしては、礼儀は茶番であり芝居である
これは新渡戸稲造の著書『武士道』の言葉です。
『武士道』は剣術だけでなく、日本人の誇りや品性に関わる道徳書でもありますが、「剣による人間形成」を主目的とする剣道の組織で不正というのはショッキングなニュースです。
全日本剣道連盟の不正
今回、表面化した不正行為は、金銭の受け渡しによるものです。
関西在住の同連盟会員の男性が全日本剣道連盟の「居合道委員会」の委員から合計650万円を要求されたと告発しました。
会員の男性は居合道の称号で最高位である「八段範士」の審査を受ける目前だったといいます。
全日本剣道連盟の第一の資金源は昇段などの受験費用です。
これに金銭を上乗せする形で昇段や範士の審査が有利になるというものでした。
委員が審査員
650万円の内訳を聞くと少し印象が変わります。
委員長に100万円、残りの委員にも50万円ずつわたすという内容だったようです。
居合道委員会は居合道の普及や振興などを担う組織ですが、委員が範士の審査員を兼ねていました。
連盟にではなく、委員個人が受け取ることになっていたというのが問題ですね。
また、剣道での昇段審査は1対1の実践形式ですが、居合道では「形」を制限時間内に披露する個人演武です。
昇段審査のルールブック「居合道称号段位審査実施要領」では、審査員は受審者の心の落ち着きや気迫、風格などを総合的に判断すると規定されていますが、剣道と違って居合道では不正が行われやすい状況下にあったともいえますね。
横行する全日本剣道連盟の不正
平成26年度にも不正があったと告発されています。
山口県の稲田氏は会員の多くが「一生受からない」といわれるトリッキーな居合術ですが、合格したのがおかしいというのです。
過去にも大阪の石田兄弟、栄花兄弟、宮崎兄弟、京都の高橋氏、岡山の松井氏や山根氏、長崎の馬場氏なども八段合格には画策があるといわれてきました。
逆に若手の茂木氏や横田氏は全員不合格となりました。
特に横田氏は会場からも歓声が湧き上がるほどの演武をみせましたが不合格となったのは公平ではないという声もありました。
これは明らかに矛盾と画策があり、接待や金銭の受け渡しがあった受験者には最初から丸印が付けられているともいわれています。
尊敬を集める雲の上の存在
居合道では、初段から八段の段位審査があり、この他に高段者が取得することができる「錬士」「教士」「範士」という3つの「称号」があります。
段位の最高は八段、称号における最高は「範士」、すなわち「八段範士」が最高位というわけです。
現在、八段所有者は全国で約200人、範士は約50人と非常に狭き門です。
また、八段や範士という有資格者は「多くの会員から尊敬を集める雲の上の存在」といわれています。
受験者の立場からすれば「肩書き」という名誉欲があり、審査側の委員が金銭や接待の有無で合格させるという方法が横行していたのです。
簡単に言えば「肩書き」を売買していたわけですね。
なぜ不正行為が横行するのか
日本には言論の自由があります。
言論の自由があるにも関わらず、こういった組織の内部の情報は外部へ漏れることがないのです。
日本ボクシング連盟の山根会長の件や日本相撲協会の騒動も同様です。
山根会長の件でも本人や連盟が求めたものではなく、あくまで相手側の忖度によるものだというのですが、長いものに巻かれろということでしょうか。
こういった忖度というのは告発すると自分の師匠や周りの先輩方をも暴く結果となり、自身の周囲との関わりにも大きな影響を与えます。
結果、これまでの風習を守り、不正行為に走ります。
一旦不正行為に身を染めてしまうと、大切な弟子や子たちもまた、同じように風習にのまれてしまうでしょう。
しかし、今までの風習が良いものなのか悪いものなのかはともかく、今回の全日本剣道連盟の場合のように「剣による人間形成」を目的とするような組織が肩書きを売買するような行為は言論の自由によって告発されるべきではないでしょうか。
信実と誠実となくしては、礼儀は茶番であり芝居である
冒頭で紹介した新渡戸稲造の著書『武士道』の言葉ですが、彼はこうも記しています。
武士の教育において守るべき第一の点は品性を建つるにあり