「せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ」
御存じ「春の七草」です。
一月七日の朝食に食べる七草粥に入れる食材として知られていますよね。
この中の「すずな」はカブを指しています。
カブは、日本では古来から大変に馴染のある野菜であり、古事記の「吉備の菘菜(あおな)」がカブと同一視されるほか、日本書紀では、持統天皇がカブの栽培を推奨したとの記述があるとのこと。
味噌汁の具として人気なのは勿論、京都の聖護院蕪に代表される千枚漬けもとても有名ですよね。
栽培しやすく、痩せた土地でも育つので、行軍する兵士の栄養補給源の一環としてカブを取り入れたのが、三国志に登場する天才軍師・諸葛亮孔明です。
10万人もの兵士を率いて行軍中、兵士が徐々に衰弱していくのを憂いた孔明は、自生のカブを兵舎の周囲で栽培し、それを糧にすることで無事に遠征を終えることができました。
孔明の偉業は後世まで称えられ、そのカブは「諸葛菜」と呼ばれるようになったといいます。
カブは、世界でも身近な食材として親しまれています。
ロシアでは、「大きなカブ」という民話に代表されるような馴染深い野菜です。
「大きなカブ」のお話しは、畑に出来たカブが大きすぎておじいさん一人では収穫できず、おばあさん、孫、犬、猫など、皆が力を合わせて大きなカブを引き抜くお話しです。
ドイツでは、戦中戦後の食べる物が乏しかった頃にカブ料理が大活躍していました。
但し、当時、あまりにカブばかり食べさせられたというご年配の方々は、もう今では「カブを見るのも嫌!」とかいう話もありますが。
レシピとしては、カブの酢漬けや、赤カブのスープなど。
ところかわってフランスでは、カブを蒸し煮にして食べることがほとんどです。
レシピは、ポトフやスープ、ポタージュやピュレーなど。
アメリカのハロウィンで欠かせない「カボチャをくり抜いて作るジャック・オー・ランタン」ですが、元々はカボチャではなくカブでした。
カブより手に入りやすいので、カボチャが使われるようになったのです。
北欧ではクリスマスの肉料理の添え物として、カブが使われます。
「ベイクド・スウェード」というレシピは、カブを潰し、その中にミルクと卵と入れて焼き上げたものです。
野菜のケーキ、というよりは、まさに「野菜プリン」と言うべきもので、大変美味しいそうです。
カブは火を通すとすぐに柔らかくなるので、乳製品と混ぜ合わせる調理法も簡単ですね。
砂糖を多めに入れれば、目先の変わったおやつとして、野菜嫌いのお子様も喜んで食べてくれるかもしれませんね。
食材データ
種類:根菜類
旬の季節:冬~春
主な効能
胃酸過多の改善
骨や歯の強化
霜焼けの改善
栄養成分
肥大した球形の白い部分がカブの「根」だと思われていますが、本来、この部位は「胚軸」と呼ばれるものです。
実際の「根」は、肥大した「胚軸」の下からチョロチョロと伸びているヒゲ状のものです。
ヒゲ状の根は食用に適さないため切り落とし、「胚軸部分」を漬物や味噌汁の具として用います。
白いカブの胚軸は白く、赤いカブの胚軸は赤い色をしています。
カブには、でんぷんを分解する消化酵素「アミラーゼ(ジアスターゼとも称される)」が含まれています。
アミラーゼは、体内では膵臓や唾液腺から分泌されますが、カブにも豊富に含まれており、胃もたれや胸やけの防止に効果を発揮してくれます。
アミラーゼは加熱すると効果が激減するため、できれば、生でカブを食べることをお勧めします。
カブは、ビタミンC、ビタミンB6、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パンテトン酸、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、銅、リン、葉酸を含んでおり、特に葉酸とビタミンCの成分が高いです。
カブの胚軸部位より、カブの葉の方が栄養素を多く含みます。
ビタミンAやビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンCなどのビタミン類、食物繊維も、カブの葉の部分の方が、胚軸部位より上回ります。
特にビタミンCにおいては、カブ100グラム中に75㎎以上も含まれており、これはオレンジやトマトの約3倍の含有量に相当します。
前述したようにカルシウム、鉄、カリウムなどのミネラル分も豊富で、特にカルシウム含有量は、野菜の中でもトップクラス。
カブ100グラム中、約230㎎にも及びます。
普段から、可食部の胚軸部位を食べるだけでなく、積極的にカブの葉を食べる事(例:「茹でておひたしに」、「浅漬けに」、「胚軸部位と共に味噌汁の具に」)を心がければ、含まれているカルシウムが有効に働きかけ、「骨や歯が丈夫になる」、「ストレスを和らげてくれる」、「キレやすいなどの神経過敏症を改善する」などの効果が期待できるでしょう。
カブは糠漬けにして食べるべし
カブは古くから漬物にされてきた食材です。
糠漬けにしたカブは、糠床にしている米ぬかの栄養素を取り込むことにより、含まれる栄養素が5倍~10倍以上も増えるといわれます。
特にビタミンB1が大幅にUPします。
糠漬けにしたカブを食べることで、日頃から不足しがちなビタミンB群が効率よく摂取できますし、腸内バランスを整えるのにも役立ちます。
特徴
アブラナ科アブラナ属に分類される野菜です。
カブの旬は晩秋から冬。
寒くなると甘味が増して美味しくなります。
美味しいカブを選ぶ基本としては、葉が活き活きとした緑色をしていること、白カブであれば胚軸部位が真っ白で傷や汚れの無い物、赤カブであれば胚軸部位が鮮紅色をしている物。
どちらの場合も皮に艶々として張りがあり、手に持ったときに重みを感じられる物が、水分たっぷりで美味しいです。
ヒビ割れや傷があるもの、ヒゲ根が多いものは避けましょう。
購入した葉付きのカブは、葉がついたままだと葉に水分と養分を奪われてしまいます。
葉と胚軸部位を切り分けた後、適切な方法で保存しましょう。
赤カブには、眼精疲労を軽減するとされるアントシアニン色素が多く含まれています。
種類
原産地は(諸説ありますが)、中央アジア地域、地中海沿岸地域とされています。
世界のカブ生産上位国は、中国、ウズベキスタン、ロシア、アメリカ、ウクライナです。
日本で栽培されているカブは色も大きさも多種多様で、その地に根付いた独特の品種もあります。
千葉、埼玉、青森、北海道、京都、山形、岐阜、新潟、滋賀、福岡などで栽培されています。
聖護院カブ
京都の漬物「千枚漬け」に使われます。
重さは約1.5〜3kgにもなる大きなカブです。
天王寺カブ
大阪市天王寺付近で古くから栽培されている伝統的なカブです。
「名物や蕪の中の天王寺」と与謝野蕪村がこのカブのことを詠んでいます。
すぐき菜
京都市北区上賀茂地区に伝承されている在来種のカブの一種で、漬物にしたときに独特の酸味があるため、「酢茎(すぐき)」と呼ばれています。
起源は桃山時代とされます。
因みに、前述の「千枚漬け」、「すぐき」、「しば漬け(カブの漬物ではない)」を「京都三大漬物」と呼んでいます。
赤カブ
皮が赤い色をしていますが、中は概ね白色です。
主に漬物として用いられます。
野沢菜
意外と思われた方も多いのでは?
長野県の有名な特産物で、これもカブの一種です。
レシピ
千枚漬け
京都の冬野菜の代表である白くて丸々とした大きな聖護院蕪を、まるで千枚にもなるように薄く切り、昆布、唐辛子と共に酢漬けにした漬物です。
昆布のねっとり感に反し、薄いながらもシャキシャキした歯ごたえの千枚漬けに「もう一枚! あと一枚!」と箸を伸ばす手が止まりません。
そのままでも十分美味しいですが、たまには千枚漬けを他の食材とコラボ(例:カラスミを千枚漬けで巻いてみる)しても一味違って楽しめますよ。
蕪と鶏肉のお吸い物
カブの味噌汁も美味しいですが、時には「蕪と鶏肉のお吸い物」はいかがでしょう?
あっさりしているが、コクもある。
鶏肉の脂がじんわりと汁の中に滲み出し、甘味のあるカブが更なる旨味を引き出します。
カブは加熱し過ぎると煮崩れしますので、カブの触感をしっかり残したい方は出汁の余熱で加熱しましょう。
カブ【蕪】 カルシウム含有量はメザシに匹敵。糠漬けだと更にUP まとめ
とても身近な食材であるカブ。
主に可食部とされる胚軸部位よりも、葉の方にたっぷりと栄養素が詰まっています。
野菜の中ではカルシウム含量が豊富で、レシピも汁物、漬物、煮物と数多あります。
和風レシピ、特に味噌汁に多用されるカブですが、時にはポタージュなどの西洋風アレンジもお勧めです。