吸血衝動が出る遺伝子疾患「ポルフィリン症」、血液に対して異常な執着を見せる精神疾患の一種「ヘマトフィリア」。
これらは、人が吸血行為に走る要因の一つとして考えられるものです。
「20世紀の吸血鬼」という異名を持つジョン・ヘイもまた、何らかの要因で吸血の魅力に取りつかれた一人だったようです。
スペルは、「John George Haigh」なので日本語ではジョン・ジョージ・ヘイグとも表記されています。
吸血衝動の目覚め
映画などで描かれる吸血鬼は、自らの生命維持のための吸血を行っていることが多いようです。
血液は、彼らが摂取できる唯一の食料なのかもしれません。
しかし、20世紀のロンドンに実在した、吸血鬼ジョン・ヘイの場合はどうだったのでしょう。
1944年から1948までの4年間で、9人もの人間を殺害し、血をすすった人物です。
1911年にイギリスのヨークシャーで生まれたジョン・ヘイは、少年時代から血液に執着を抱いていました。
傷口から流れる自分の血を、興味のままに舐めとったときに、甘美な衝撃に包まれたためです。
血液の魅力の取り憑かれ、年をとるごとに「血が飲みたい」という衝動が強くなっていきました。
年頃になると、ガールフレンドとキスをしながら、唇を噛み切って血をすすりたいという衝動に襲われることも。
それでも、他人に危害を加えるまでには至りませんでした。
彼の人生を決定付けたのは、1944年の復活祭のことでした。
事故で傷を負ったジョンは、流れ出た自分の血を口にします。
そして、その夜に奇妙に夢を見たのです。
十字架の森の中で、血で満たされた盃を謎の男に勧められ、手にとろうとしたところで目覚めます。
この夢での出来事が、血に対する渇望を深めていきました。
そして、ついには最初の犠牲者を出してしまいます。
吸血鬼の犠牲者
吸血鬼ジョン・ヘイの犠牲者となったのは、いずれも彼と近しい関係にある人たちばかりでした。
最初の犠牲者となったのは、ウィリアム・ドナルド。
会社を興すための相談役として、ジョンを選んだ友人でした。
血への渇望を抑えきれなくなったジョン・ヘイは、1944年の9月に自宅の地下室にウィリアムを招待し、殺害。
ナイフで喉を切り裂いた後に、吸血行為に及びました。
この事件を皮切りに、ウィリアムの両親、不動産の売買で知り合ったヘンダーソン夫妻などを次々と手にかけていきます。
犠牲者は全員、メッタ刺しにされた後に血をすすられ、証拠隠滅のため遺体を硫酸風呂で溶かされています。
最後の犠牲者となったのは、資産家のデュランド・ディーコン老婦人。
街でばったりと出会ったジョンが、マニキュア工場の出資の件で話したいと、自宅に招待したのです。
もともと顔見知りで、社交的なジョンに好印象を持っていた老婦人は、誘いに応じてしまいました。
しかし、紳士的なジョンの態度は、家の中に入った瞬間に豹変します。
「なぜ、ジョンがこんなことを・・・」、自分の身に降り掛かった出来事が信じられないまま、切り刻まれる老婦人。
最後に目にしたのは、血に塗れて恍惚としたジョンの表情だったかもしれません。
血をすするために老婦人を殺害したジョンは、言いようのない快感に身を任せたまま、傷口に口をつけます。
血液の甘美な味わいに、ひとしきり酔いしれ、正気を取戻していくのです。
「またやってしまった・・・」
血を求める、もう一人の自分を抑えきれないまま、罪を重ねるジョン。
後悔に苛まれますが、他の犠牲者と同じように、老婦人の遺体も硫酸で溶かしました。
証拠は完全に消し去ったと安心したのも束の間、この事件をきっかけに、逮捕されることになります。
老婦人の消息を心配する家族によって、警察に捜索願が出され、捜査が開始。
容疑者として浮かび上がったのが、老婦人と一緒の姿を目撃されていたジョンでした。
そして、自宅の硫酸の中からわずかに残っていた老婦人の身体の一部が発見されました。
1949年2月、老婦人殺害の容疑でジョン・ヘイ逮捕。
警察での取り調べでは、次のような供述を残しています。
「誰も憎くて殺したわけじゃないんだ・・・ただ血が飲みたかった。血をすすることを想像するだけでも、いいようの無い興奮を覚えて、気がついたら殺していたんだ・・・」
その後、1949年7月に裁判が行われ、死刑判決がくだされます。
弁護側は、精神異常を主張しましたが、陪審員は有罪を即決。
20世紀の吸血鬼の人生の幕が閉じられました。
吸血鬼ジョン・ヘイ~抑えきれない血に対する渇望!ヘマトフィリア~ まとめ
ジョン・ヘイの血液に対する異常な執着の要因は、何だったのでしょうか。
精神疾患という説と、罪を逃れるため精神疾患を装ったという説が飛び交いました。
今となっては、吸血衝動のままに、次々と知人を手にかけたという事実が残るのみです。
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