「くっさぁ~!!」
熟したギンナンが落ちているイチョウ並木の下を歩いたことがある方なら、あの異様な臭さに辟易し、鼻をつままずにはいられない……
といった超強烈体験を、嗅覚が確実に覚えていることでしょう。
うっかり果肉を踏もうものなら、ずるりと滑って果肉が潰れ、更に物凄い臭気にあてられてしまう。
一体いつ誰がどうやって、こんなにもクサいイチョウ果肉の中の「ギンナン」が、食べられる物だと知ったのか?
鉄壁とも言える強烈臭気と戦いながら果肉を剥いで殻を割ると、独特の食感に微かな苦味を持つ、季節感満載の美味しい「ギンナン」にたどり着くことができます。
あの独特の臭気は、イチョウの実が熟した時に発生します。
イチョウには雄株と雌株があり、イチョウの実は雌株にしかできないため、ギンナンも雌株にしかできません。
ですので、単純にイチョウ並木の景観のみ楽しみたいのであれば、「雄株のイチョウだけ植えれば良い」のです。
イチョウからギンナンの恩恵を受けたいのであれば、ゴム手袋とマスク必須でギンナン拾いにチャレンジしても良いでしょう(自分の地所でなければ、許可を貰ってからにしてください)。
イチョウの果肉が発する異臭には2つの成分が含まれます。
「酪酸」と「ヘプタン酸」です。
「酪酸」は発酵食品には欠かせない成分で、バターやチーズに含まれています。
「バター臭いのが苦手」、「牛乳が臭くて飲めない」、「こぼした牛乳が床に滲み込んでいつまでも臭う」などの例がすぐに挙げられるほど、酪酸はごく僅かな量でも鼻につく特徴的な臭気を発する成分です。
「ヘプタン酸」は、腐敗物のような悪臭を放ちます。
「酢酸の強烈な臭い+ヘプタン酸による腐敗臭」のダブルパンチの物凄い悪臭が周囲に立ち込め、人間はもとより猿や鼠もよりつきません。
ですが、アライグマなど一部の動物は平然と食べてしまうので、それを見た人間が真似をして食べてみたら意外にも美味だった!
というのがギンナンを食材として認識した最初の歴史かもしれませんね。
苦労して臭い果肉を剥いでから種子の殻を割ると、ギンナンが中に入っています。
茶碗蒸しや串焼きなどで御馴染みの食材です。
食材データ
種類:豆類
旬の季節:秋
主な効能
咳、頻尿の改善
栄養成分
ギンナンは、落葉高木であるイチョウ科イチョウ属のイチョウの種子です。
イチョウは「生きた化石」とも呼ばれており、古生代末期に出現し、厳しい氷河期を耐え抜き、現代まで生息している植物なのです。
約二億年もの間、ほぼ同じ形態を保っています。
イチョウの実は「銀杏(ギンナン)」と呼ばれます。
タンパク質、脂質、糖質が主成分で、そのほか、カリウムやマグネシウム、リンなどが豊富に含まれており、栄養価の高い食材です。
漢方においてギンナンは、肺を温めて咳を止める鎮咳効果があり、頻尿や夜尿症に効くとされます。
中医学では収渋薬に分類され、体内から漏れ出るものを止める働きがあるとされます。
日本においても上記の説(鎮咳効果や去痰効果)に倣い、国民病と恐れられていた結核に、煮たギンナンを食べることで抗ったそうです。
ギンナンの白果が主成分の薬「定喘湯」は鎮咳・去痰作用がある漢方薬です。
また、ギンナンには膀胱の括約筋を強くする成分も含まれていますので、夜尿症や(夜間)頻尿に奏効するといわれます。
ただし、ギンナンの食べ過ぎによるギンナン中毒には十分注意しなければなりません。
中毒症状は、強直性痙攣が主な特徴であるてんかん様発作です。
中毒を引き起こす物質は、ギンナンに含まれる4-O-メチルピリドキシンです。
4-O-メチルピリドキシンは抗ビタミンB6作用があるため、ギンナンを過剰摂取するとビタミンB6欠乏症を引き起こし、前述の強直性痙攣などの症状が出ると考えられます。
ギンナン中毒であることをいち早く察し、速やかに病院に行ってビタミンB6を投与することで劇的に回復するそうです。
ギンナン中毒の危険性は、中国の明時代・1476年に記述された『滇南本草』にも「千個食べると死んだりする」などと書かれているそうです。
大人に比べ、小児は中毒を起こしやすいので注意が必要です。
また、大人であってもビタミンバランスが崩れている状態の人は中毒症状が出やすいと言えます。
特徴
ギンナン自体に中毒症状を引き起こす物質が含まれているのは前述しましたが、果肉にもギンコール酸などのアレルギー物質が含まれています。
素手で触ってすぐにかぶれたり、長期間触り続けることでかぶれた例があります。
とはいえ、茶碗蒸しの中のたった一粒のギンナンが、季節感を醸し出してくれるのも確かです。
熱すると鮮やかな緑色、水分を含めば黄色っぽい不透明な色になるギンナンは、日本では炊き込みご飯や茶碗蒸しに使われ、居酒屋の串焼きも定番ですよね。
中華料理では炒め物に加えて使います。
種類
ギンナンの産地は、愛知、大分、新潟、佐賀、岐阜、愛媛、高知、徳島、石川などです。
旬は9月~11月半ばくらいまで。
品種としては、「金兵衛」、「久寿 (久治)」、「藤九郎」、「栄神」などが挙げられます。
食用で人気のあるギンナンは「藤九郎」という品種です。
レシピ
煎り銀杏
水分が抜けて香ばしいギンナンは、もっちりとした独特の食感です。
茶封筒と電子レンジを使えば、時短で簡単に作れます。
銀杏の串焼き
ギンナンを3個から5個ほど串に刺して焼けば、居酒屋風のおつまみの出来上がり。
塩をつけてアッサリ食べても良し。
辛子マヨネーズや七味をつけて食べればピリッとした辛さが味のアクセントに。
銀杏の素揚げ
煎りギンナンより鮮やかな翡翠色。
もっちりとしてコクがあり、コリッと齧れて美味しい。
お酒のおつまみは勿論、お正月のおせちに入れれば、変わり種としての良いアイデアかも。
茶碗蒸し
茶碗蒸しにはギンナンは必須ですね。
水分を含んで蒸された黄色いギンナンもホクホクして美味しいですし、鮮やかな緑色のギンナンを茶碗蒸しの上に載せれば、目にも鮮やかで季節感満載です。
ギンナン【銀杏】 頻尿予防や鎮咳作用があるが、銀杏中毒に注意! まとめ
ギンナンに去痰効果や鎮咳効果、頻尿や夜尿症の予防効果があることは古くから知られていました。
鎮咳効果を求めるのであれば、ギンナンを焼いたり、煮たり、スープにして食べることで、その働きが期待できます。
焼いたギンナンを食べることで、膀胱の括約筋が強くなり、夜尿症の予防が期待できます。
ギンナンの多食で中毒症状が引き起こされることも古くから知られています。
特に、小児は中毒になりやすいので、十分注意しましょう。