女吸血鬼の代表格といえば、アイルランド人作家シェリダン・レ・ファニュが1872年に発表した小説「カーミラ」に登場する吸血鬼。
彼女には、実在のモデルがいたと言われています。
若返りのために、少女たちの生き血を求めた、血の伯爵夫人ことエリザベート・バートリー伯爵夫人です。
エリザベート・バートリー伯爵夫人とは
エリザベート・バートリーは、ハンガリー王国の名門貴族の出身。
ハンガリーの言語であるマジャル語ではバートリ・エルジェーベト。
1575年にハンガリーのニートテ地方に領地を持つ、貴族のもとへ嫁ぎました。
ラテン語やギリシャ語などを修めた教養溢れる女性で、戦争で領地を留守にすることが多かった夫の代わりに管理をこなしていました。
また、際立つ美しさの持ち主で、自らの美貌を保つことに、なみなみならぬ興味を持っていたと伝えられています。
彼女の行動が、血に彩られるようなったのが、1600年代に入ってからのことです。
夫と死別した後、与えられたチェイテ城の城主となったころから、周囲の村には、不穏な噂が流れるようになりました。
帰ってこない少女たち
エリザベート・バートリーが、チェイテ城主となったのは、44歳のとき。
自慢の美貌に陰りが見え始めたころのことです。
このころになると、なぜか城に奉公へといった少女たちが帰ってこないという噂が、付近の村に流れ始めます。
奉公期間は、とっくに終わっているはずなのに帰ってこない。
少女の親たちが城へ問い合わせても「すでに城から去っている」という言葉が返されるだけでした。
また、「夜のチェイテ城には、ときたま拘束された少女を乗せた馬車が出入りする」、「城の下男が若い処女を探しにやってくる」といった噂も流れます。
不気味なチェイテ城の噂、それでも貧しい百姓たちは、喜んで金と引き換えに少女たちを奉公に出しました。
では、実際に城の中では、何が行われていたのでしょうか?
城の地下牢に閉じ込められた少女たちは、一人、また一人と連れ出され、そのまま残酷な運命へと投げ込まれることになります。
エリザベート・バートリーが信じる、「若返りの儀式」のための生贄となるためです。
血こそが若返りの妙薬
若返りの儀式のためには、少女たちの生き血が必須。
エリザベート・バートリーは、血こそが若返りの妙薬と信じていました。
そのきっかけとなったのが、彼女の髪の手入れをしていた召使いへの暴力でした。
力加減の間違いから、数本の髪の毛を抜いてしまった召使に激昂したエリザベートが、手鏡で殴りつけたことが始まりです。
殴られた召使いからほとばしった鮮血は、エリザベートの手に付着。
何ともいえない快感を得るなか、血に染まった手の部分が、美しさを取り戻したように見えたのです。
少女の血には若返りの効果があると信じた瞬間でした。
この出来事から、魔術の儀式などにも興味を抱くようになり、血に対する執着が生まれます。
そして、夫の死後に、執着を抑えることなく少女たちを城に集め、儀式をするようになったのです。
鋭い針が無数についたカゴに、裸の少女を閉じ込めた、血のシャワー。
身動きするたびに針は突き刺さり、血がカゴの下へと滴り落ちました。
また、搾り取った血を浴槽に集め、全身を浸すこともありました。
このような残忍な若返りの儀式は、実に10年以上も続けられていきました。
若返りの儀式の結末は
エリザベートの魔の手は、ついに村の少女たちだけではなく、下級貴族の娘たちまで及ぶようになりました。
「チェイテ城から帰ってこない少女たち」の話は、ハンガリー国王の知るところとなり、国からの捜査の手が入ることになりました。
チェイテ城に乗り込んだ役人たちが目にしたものは、腐敗臭に満ちた儀式の場と、膨大な遺体の数々でした。
白骨化したもののみならず、残酷な拷問の痕跡を残した少女たちの無残な身体・・・
明らかな証拠を前にして、エリザベートと部下たちは捕らえられることに。
裁判の結果、部下たちは火あぶりの刑となり、処刑されました。
しかし、エリザベート本人は、貴族という身分から死刑を免れ、生涯にわたって城に幽閉されることとなりました。
一見、温情が与えられたように思えますが、実際には光の差し込まない暗闇の中での生活を余儀なくされるという恐ろしいものでした。
食べ物と水を差し入れる小窓のほかには何も無い空間で、4年間生きながらえた後、その生涯は閉じられました。
このとき、エリザベートの年齢は54歳。
発見された死体は、やせ衰え、白骨のような老婆の姿に変わり果てていたといわれています。
まとめ
少女たちの生き血を若返りの妙薬として、夜ごと残酷な儀式を繰り返していたエリザベート・バートリー。
吸血鬼のモデルとして遜色ない行いの数々が、歴史に記されています。
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