本場のエスプレッソは、コーヒー界の大吟醸といえます。
エスプレッソは、ドリップとは異なり、圧力を加えて抽出することによってコクと香りを高濃度で引き出す方法で抽出されます。
この1杯のエスプレッソから広がるコーヒーの深い味わいは、一度覚えたらやみつきになること間違いありません。
カフェにおいては、エスプレッソはすべてのメニューの基本と言っても過言ではありません。
淹れたてをそのままデミタスカップで飲むことはもちろんですが、カプチーノやカフェラテ、その他多くのアレンジコーヒーにはこのエスプレッソが必要です。
それで1杯のエスプレッソを美味しく淹れられるかどうかが、最重要なカギとなります。
ではまずエスプレッソの基本を押さえ、次いでエスプレッソマシンを始めとする器具の操作方法やコーヒー豆の持つ可能性を最大限に引き出す方法について取り上げます。
その後で、カプチーノやカフェラテなどのミルクを使ったメニューへと進んでゆきましょう。
エスプレッソの基本用語
まずはエスプレッソで用いられる数々の専門用語を確認しておきましょう。
クレマ
クレマとは、エスプレッソを抽出した際に表面に浮かぶ泡の層のことです。
この泡は、明るい茶色から濃い赤茶色の範囲内の色をしています。
クレマには、香りを閉じ込めたり、保温したり、口当たりを良くしたりといった効果があるため、クレマの滑らかさが、エスプレッソの美味しさのひとつの決め手になります。
エスプレッソの抽出に成功した時には、ちょうどよい色合いのきめ細かく厚いクレマが現れます。
これを上から見ると、虎の毛皮の模様のように見えるのでタイガースキンと呼ばれることもあります。
一方、エスプレッソの抽出に失敗すると、クレマの層は薄くなったり、途切れた部分があったり、色が薄すぎたり、逆に黒々とした状態になったりします。
ラテアートを描くような場合にも、クレマのできぐあいが重要です。
家庭用のエスプレッソマシンでも、15気圧で抽出できるものであれば良い状態のクレマを作ることが可能です。
バリスタ
イタリア語で「コーヒー抽出技術士」のことをバリスタと言います。
バリスタにはコーヒーに関する深い知識と技術が要求されます。
特にカフェでエスプレッソ系コーヒーを淹れる職人を、バーテンダーと区別してバリスタと呼んでいます。
バール
イタリアでは、軽食喫茶店をバールと呼んでいます。
食事に重きを置いたリストランテ・バール、コーヒーが主軸のカフェ・バール、そしてジェラートを中心とするジェラテリア・バールなどの種類があります。
もちろん、どのバールにもカフェとしての機能が備わっています。
スチームノズル
エスプレッソマシンにおけるスチームワンドの先端部分のことをいいます。
蒸気孔
スチームノズルの、蒸気が出てくる孔の
部分のことです。
スチームワンド
スチームが通る管の部分のことです。
スチームバルブ
エスプレッソマシンにおいて、スチームを出す際に操作するバルブのことをいいます。
ブリーディング
スチーミングを実際に行なう前に、空吹かしすることにより結露した水分を飛ばすことをいいます。
スチームドミルク
スチーミングの際にスチームワンドをミルクに深く差し込むことによって、泡を作らずに温めたミルクのことです。
フォームドミルク
スチームによって作った泡と、液体を混ぜ合わせたミルクをフォームドミルクといいます。
ミルクピッチャー
スチーミングするためのミルクを入れる容器のことです。
ラテアートなどで細い線を描く必要がある場合には、注ぎ口が三角形に尖っているものが最適です。
ポーターフィルター
ポルタフィルターともいいます。
エスプレッソマシンに付属している、挽いた粉を入れる専用の器具です。
タンパー
ポーターフィルターに入れたコーヒーの粉を押し固めるのに使う器具です。
タンピング
ポーターフィルターに入れたコーヒーの粉をタンパーを使用して強い力を加え、空気を抜いて粉を押し固める操作のことをいいます。
タッピング
タンピングをする際に、フィルターバスケットの側面にせり上がったコーヒーの粉を落とすために横からタンパーのハンドルで叩く動作のことです。
ノックボックス
エスプレッソを抽出した後の出がらしを、ポーターフィルターをバーに叩きつけて捨てられるような形状で作られた容器のことです。
ホッパー
グラインダーのコーヒー豆を入れておく部分のことです。
ホッパーリッド
ホッパーの蓋のことです。
家庭用と業務用のエスプレッソマシンについて
最近では、家庭用のエスプレッソマシンの種類も増え性能も向上しているため、家庭でも美味しいエスプレッソが飲めるようになりました。
市販のエスプレッソマシンには機能・デザイン・価格などの違いがいろいろとありますが、重要なポイントはしっかりと気圧がかかるかどうかということです。
15気圧できめ細かなクレマを作ることができるので、それが可能な機種にしましょう。
家庭用でもOKです。
写真は人気の全自動エスプレッソマシン、デロンギ製です。
ポッドと呼ばれる、あらかじめコーヒー粉をタンピングし不織布にパックしたものが使用できるタイプのものも便利です。
気圧に問題がなければ家庭用でもOKですが、業務用のフィルターを使えばプロが淹れるエスプレッソに近い味が楽しめますから、業務用のフィルターに対応した機種を選ぶのも良いでしょう。
エスプレッソマシンの基本的な使い方は、業務用のものも家庭用のものもほぼ同じです。
エスプレッソマシンの基本的な扱い方のポイントを3つ押さえておきましょう。
グループヘッド
エスプレッソ抽出のために不可欠な、圧力とお湯の出口となるのがこの部分です。
家庭用のマシンでは、コーヒー粉用のフォルダーとあらかじめタンピングされた粉をバッグにしたカフェポッド用のフォルダーの両方に対応した機種もあります。
圧力計
エスプレッソ抽出の際にかかる圧力の大きさをチェックし、理想の圧力に調節するための計器です。
通常は9気圧になっています。
家庭用のマシンは、機種によってかなり気圧が異なっているようです。
しっかり気圧がかかるものを選んだほうが、より美味しいエスプレッソが作れますから、購入の際にはしっかりとチェックしておきましょう。
スチームノズル
蒸気でミルクを泡立てて、フォームドミルクを作るためのものです。
ミルクの量や泡立て具合によってカプチーノやカフェラテ、マキアートなど様々なバリエーションを生み出すことができるので、このスチーマーはエスプレッソを楽しむためには欠かすことができない機能となっています。
興味深いのは、マシンを使えばエスプレッソがいつでも最高の状態で淹れられるというわけではないということです。
実は、プロのバリスタが同じ道具と同じ豆で淹れても、人によって微妙に味は違います。
やはりカフェを作るのは道具ではなく、あくまで人なのです。
エスプレッソは繊細で奥の深い飲み物です。
マシンの使い方ひとつをとっても、エスプレッソの出来栄えが変わってくるわけですから、しっかりと基本をマスターし、最高の1杯を目指したいものです。
エスプレッソを淹れるのに必要な道具
エスプレッソマシンの他に必要な道具もいくつかあります。
これらの道具はマシンに付属していることもありますが、きちんとしたものを使用するとよいでしょう。
タンバー
フィルター内のコーヒー粉を上から押さえ、平らに詰めるための道具です。
家庭用のものではマシンと一体になっている場合もありますが、単体で揃えておきたいものです。
ポーターフィルター
グリップの先についたバスケットに、コーヒーの粉を入れてタンバーでタンピングを行い、グループヘッドにきっちりとセットします。
ショットグラス
抽出されたエスプレッソの量を計るためのもので、目盛りがついています。
ワンショットは伝統的に1オンス(30ml)となっています。
エスプレッソの達人になるためには、まずきちんと計量することから始めましょう。
タイマー
理想の抽出時間は1オンスあたり20秒から30秒です。
タイマーで時間を測定しながら、圧力や豆の挽き加減を調整してベストなところに持っていきます。
ピッチャー
スチーマーで牛乳を温めて泡立てる際に使用する容器です。ラテアートに用いる場合は、注ぎ口がくちばし状に細く尖っているものを選ぶと注ぎやすく便利です。
エスプレッソに適したコーヒー豆について
エスプレッソはかなり濃く抽出するため、コーヒー豆の品質がもろに出ます。
美味しいエスプレッソを楽しみたいなら、まずは高品質の豆を選ぶことが重要です。
ミルクを入れてカフェラテなどで飲むことも多いので、ミルクとの相性も重要な要素になります。
濃厚でボディがしっかりとした味わいの豆を選ぶとよいでしょう。
販売店により焙煎具合や豆のブレンドが異なるので、ミルクとの相性を見ながら好みの豆を探し出すことが必要かもしれません。
豆の挽き方
コーヒー豆の焙煎具合はイタリアンローストが主流でしたが、最近では高品質の豆が手に入るようになって豆の個性を楽しむことができるようになったため、イタリアンローストよりやや煎りが浅いフルシティーローストがよく用いられています。
エスプレッソでは、豆の挽き方も重要です。
挽き方は極細挽きで、淹れる直前に挽くようにします。
プロのバリスタは、その日の天候や時間帯で挽き方を変えていると言われています。
湿度が高いときは極細よりやや荒く、湿度が低いときには極細に挽くとよいでしょう。
細かければよいというわけでもありません。
細く挽くほど抽出時間は長くなりますので、1オンスが20秒から30秒というベストな時間で抽出されるように、挽き加減を調整します。
美味しいエスプレッソの淹れ方
では、美味しいエスプレッソの基本的な淹れ方をご説明しましょう。
バスケットに粉を投入する
エスプレッソ用に極細挽きにしたコーヒーの粉をバスケットに入れます。
シングルショット用のバスケットの場合で8gから10gがベストな分量になります。
この時、少々面倒でも挽きたての豆を使うようにします。
挽いた状態で保存したものとは香りや味の次元がまったく違ってきます。
粉の表面をきれいにならす
コーヒーの粉がバスケットのちょうどすり切り一杯分になるように表面をならし、タンパーを用いてバスケットの粉を上から押していきます。
バスケットにはシングル用とダブル用がありますが、それぞれにちょうどぴったりの量の粉を入れます。
しっかりタンピングする
バスケットの中にコーヒーの粉が平らに隙間なく詰まるように、タンパーにしっかり体重をかけてタンピングします。
こうすることで、圧力やお湯をコーヒー豆全体に均等に行き渡らせることが可能になります。
マシンで抽出する
ポーターフィルターがグループヘッドにしっかりはまっているかどうかを確認します。
圧力やお湯がもれてしまうとまずいので、装着するときは必ずしっかり確認しましょう。
その後、抽出を開始しますが、新しい豆を初めて使うような場合には、マシンと圧力や湯量との相性を確かめるために、抽出に要する時間を測定すると役立ちます。
カット&トライ
エスプレッソの理想の抽出時間は、1オンスあたり20秒から30秒です。
実際に淹れる時に時間を測定してみると、豆の挽き方がちょうど良かったかどうかが分かります。
理想の抽出となるように、カット&トライで豆の挽き方を調整します。
クレマのチェック
表面の泡の層であるクレマがなめらかに仕上がっていることが、美味しいエスプレッソの証拠です。
クレマの層が薄すぎたり途切れたりしていないか、色が薄すぎたり濃すぎたりしないかをチェックします。
マシンの癖などもありますから、エスプレッソを上手に美味しく淹れられるようになるまで、何度かトライする必要があるかもしれません。
エスプレッソをマスターしたら、今度は砂糖やミルクを加えるアレンジを楽しむことができます。
例えば、エスプレッソによく泡立てたフォームドミルクを注ぐとカプチーノになります。
軽めに泡立てたフォームドミルクを注ぐとカフェラテに、フォームドミルクを少量だけ加えるとカフェマキアートになるという具合です。
このようなメニューでは、牛乳をエスプレッソマシンのスチーマーで泡立てたフォームドミルクが重要な役割を担います。
美味しいフォームドミルクの作り方
フォームドミルクは液体と泡のバランスが重要です。
きめ細かくなめらかなフォームドミルクを作るには、上手にスチームしなくてはなりません。
牛乳を泡立てる際の注意点は、加熱し過ぎないことです。
空気を吹き込み始めるときが約30℃、出来上がりは50℃から60℃程度を目安にします。
慣れないうちは、温度計を使うとよいでしょう。
慣れてくると、ピッチャーから手に伝わる熱でミルクの温度が大体わかるようになります。
牛乳の甘味が最も出るのが60℃から70℃ですので、このあたりまで加熱します。
では、フォームドミルクの作り方をご説明しましょう。
ピッチャーに牛乳を入れる
ピッチャーに冷蔵庫で冷やした牛乳を入れます。
牛乳は成分無調整のものにします。
牛乳を泡立てると体積が増えますので、容量に余裕のあるピッチャーを使うようにしましょう。
カプチーノであれば1杯分で170ccほどが目安です。
空吹かし
スチームを使う前に空吹かしして、ノズル内に溜まったお湯を捨てます。
スチームは120℃以上の高温ですので、火傷をしたり、させたりしないように細心の注意を払いましょう。
スチーム開始
ノズル先端を牛乳の表面に近づけて、空気を取り込んでいきます。
ストレッチングと呼ばれるこの作業をすることでミルクがふわふわになります。
ピッチャーが40℃程度(お風呂の温度くらい)まで温まったら、ノズルの先端を牛乳の中ほどまでぐっと入れます。
フォームドミルクの完成
牛乳は加熱しすぎると味が落ちてしまいます。
最大でも65℃くらいが理想です。
きめ細かく滑らかな泡ができたら完成です。
スチームノズルのクリーニング
スチームノズルは牛乳の中に直接入れるものですから、使用後はすぐにきれいにしておきましょう。
きれいな布巾でしっかりとふき取り、空吹かしをしておけば安心です。
カプチーノの作り方
カプチーノは、カトリック教会の修道服であるカプッチョに色や形が似ていたことから付けられた名前だと言われています。
現在ではイタリアの国民的な飲み物となっています。
エスプレッソとフォームドミルクが上手に作れたら、まずはカプチーノを作ってみましょう。
では、美味しいカプチーノの作り方をご紹介します。
同時に作る
エスプレッソとフォームドミルクは、両方を同時に作るようにすると、劣化や温度の低下を防ぐことができます。
エスプレッソを注ぐ
まずはエスプレッソをカップに注ぎます。
フォームドミルクを注ぐ
まずは高い位置から、エスプレッソの底にフォームドミルクをくぐらせるイメージで注ぎ始めます。
それから徐々にミルクのピッチャーをカップに近づけながら、表面にミルクの泡を浮かべるようにします。
ハートを描く(上級者向け)
ミルクの落下点がカップのちょうど中心に来るようにしてしばらく固定し、表面に白い円を作ります。
白い円ができたらピッチャーから出るミルクを細くし、表面に浮かんだ円を一直線に横切るように落下点を移動させると、ハート型の模様が現われます。
上手に描けるようになるまでにはちょっと練習が必要ですが、ぜひトライしてみてください。
カプチーノの表面にミルクで絵を描くラテアートをマスターすれば、もはや立派なバリスタと言ってよいでしょう。
フォームドミルクの量や泡立て具合を変えれば、いろいろな味わいが楽しめます。
カフェラテとカフェオレの違い
ところで、カフェラテとカフェオレの違いをご存じでしょうか。
実はどちらもコーヒー牛乳を意味する言葉です。
違いはカフェラテがイタリア語で、カフェオレがフランス語であるということです。
(カフェオレに関しては、ドリップコーヒーにミルクを加えたものを指すこともあります。)
ちなみにカプチーノとカフェラテの違いは、ミルクの泡立て具合の差にあります。
どちらもミルクを入れますが、念入りに泡立てたふわふわのミルクを使うものがカプチーノなのです。
まとめ
エスプレッソの世界は繊細で奥が深く、一度とりこになったら抜け出せなくなります。
ミルクや砂糖などを加えると、カプチーノやカフェラテなどを始め、多種多様なメニューを作り出すこともできます。
ぜひ、最高のエスプレッソのある生活をお楽しみください。